3Dを始めます。ソフトの起動までに24日かかりました

僕は3Dソフトを一度も触ったことがありません。

パタンナー人生はずっと平面です。紙とCADの2D。立体は頭の中と、トワルと、縫い上がった実物で確認してきた。画面の中で服を立たせた経験は、ゼロです。

数年前に岐路がありました。
3DCADの導入か服ヲ掘ルか。

どちらにも取り組むリソースは、お金も時間もありません。
最新技術を学ぶか、古き良きを探検するか。

僕は後者を選びました。

先日、ある人から服ヲ掘ルの探求は3Dと相性良いはず。
という助言を頂き、少しづつでも触ってみようかなって思いが浮かびました。

でも活用先が無いのにそこに時間を割くのはきついな。
そう感じていましたが、メンバーシップ構想は考えていましたのでその中でやり方や、それを活用したコンテンツが出せたらいいかもと思いました。

で、これはその宣言の記事なんですが、実はまだ何も作れていません。
ソフトが起動しただけ。そして、起動するまでに24日かかりました。
今日はその顛末と、なぜ40を過ぎた平面人間が今さら3Dに手を出すのかという話を書きます。

なぜ3Dか

服ヲ掘ルで解体した服の型紙データが、気づけば50型を超えていました。

解体というのは、服を壊して構造を取り出す作業です。糸を抜いて、パーツをバラして、線を採る。服は死にますが、構造は残る。
資料室に置いてあるDXFデータがそれです。

ただ、ずっと引っかかっていることがありました。

平面の型紙は、読める人にしか立体が見えない。

僕らパタンナーは型紙を見れば「ああ、ここがこう立ち上がるのか」と分かる。
でもそれは訓練の結果であって、普通は分からない。せっかく採った70年前の構造が、線の集まりのままでは、伝わる相手が限られてしまう。

3Dシミュレーターを使えば、この型紙データから、服をもう一度「立たせる」ことができます。

MEMO
3Dシミュレーター:型紙データをパーツごとに読み込み、縫い合わせを指定すると、生地の物性を計算して画面の中に服を立体で立ち上げるソフト。アパレルの企画現場で使われ始めているもので、今回契約したのはVStitcherという業務用ソフトです。

解体は、服を壊して構造を取り出す作業。3Dはその逆再生です。構造から服を立ち上げる。
壊した服が、画面の中でもう一度着られる形に戻る。掘る仕事の出口として、これはやる価値があると思った。

きっかけは、あるとき見た1枚の画像です。実写にしか見えないルック画像が、実は写真を一切使わず、型紙データから3Dソフトで作られたものだと知りました。作者いわく「今からこの面倒な作業を学ぶ気概のある人は、まずいない」。

面倒くささが参入障壁だというなら、話は早い。こっちは解体なんていう、世界有数に面倒な作業を何年も積んできた側です。

しかも3Dソフトは、型紙のどの線とどの線を縫い合わせるのかを、機械が理解してくれません。
1本ずつ人間が指定するしかない。つまり一番面倒な部分が、そのままパタンナーの領分なんです。ここは僕の土俵だと思いました。

唯一問題があるとしたら、1日24時間は平等に与えられ、それを増やすことが出来ない事。

で、起動しない

8月16日、月額75ドルでライセンスを契約しました。

その日のうちにインストールして、起動して、エラーが出ました。

「VStitcher license isn't available for your account」——あなたのアカウントにライセンスがありません。

いや、今払ったんだけど。

管理画面を見ると、契約は有効。座席も使用中と表示されている。なのにソフトは「ライセンスがない」と言い張る。サポートに英語でメールを送ると、定型文が返ってきて、そのあと6日間、沈黙。催促してようやく人間が出てきて、「ライセンスの席が解放されないバグかもしれない。席を2つに増やしたから入れるはずだ」と。

入れませんでした。

ここから先は、AIの相棒と一緒にログを掘る日々です。服の解体と同じで、原因というのは一枚ずつ剥がしていくしかない。

調べていくと、問題はライセンス以前の場所にありました。そもそもログインが完了していない。ログイン画面で正しいパスワードを入れても、最後の通信が毎回「400 Bad Request」というエラーで門前払いされている。ソフトを完全に入れ直しても同じ。サポートは「セキュリティソフトのせいでは」と言うが、調べたら無実。

最終的に、実験で追い詰めました。門前払いされている窓口に、条件を変えながら直接通信を投げてみる。すると、荷物が小さければ通って、大きいと弾かれることが分かった。

犯人は、Chromeに溜まっていたCookieでした。

MEMO
Cookie:ブラウザがサイトごとに保存している小さなデータ。ログイン状態の記憶などに使われます。

僕のパソコンでは、別の作業用に自作のツールがいくつか動いていて、そいつらがブラウザに置いたCookieが4KBちょっと溜まっていました。ブラウザは律儀に、そのCookieを全部VStitcherのログイン窓口にも送りつけていた。そして窓口は「荷物が多すぎる」と、肝心のログイン通知ごと突き返していた。

Cookieを削除したら、10秒で解決しました。

24日と、10秒です。

ミシンの調子が悪くて散々部品を疑った挙句、原因は前の仕事の糸くずが釜に詰まってただけだった、みたいな話です。
ソフトは壊れていなかった。ライセンスも正常だった。僕の机が散らかってただけ。

一応名誉のために書いておくと、原因の解析結果をサポートに送ったところ、使えなかった24日分の料金はきっちり返金されました。

どう使いたいか

まだ1着も立たせていない人間の皮算用ですが、考えていることを書いておきます。

掘った服を、回して見られるようにしたい。 解体した服はもう着られません。でも構造は全部残っている。それを画面の中で立たせて、正面からも後ろからも横からも見られるようにする。誌面の平置き写真では伝わらない、あの尻ぐりの逃げ方みたいなものが見えるはずです。

年代の違いを、構造のまま並べたい。 実験室でやっている数値比較の、その先です。たとえば同じ501でも年代で線が違う。数値では出している「前股上の差」が、シルエットとしてどう出るのか。同じ条件で着せ比べれば、目で見える形になる。

「もしも」を試したい。 ヴィンテージの実物は1点物なので、「この股上があと1cm深かったら」という実験は永遠にできません。データなら、できます。実測から仮説を立てて、画面の中で試して、また実測に戻る。探求の道具として使えると思っています。

ひとつだけ、決めていることがあります。3Dの画像を、実物の写真の代わりにはしません。
服ヲ掘ルでは写真は証拠です。3Dはあくまで探求の道具であって、本物のフリをさせるつもりはない。そこは混ぜません。

さいごに

最初の1着は決めています。解体した501、通称501Eです。縫い合わせの線を全部書き出す作業は、実はもう済ませてあります。
数えたら16組ありました。この16組を、1本ずつ画面の中で縫っていきます。

初めての3Dです。多分、最初の1着は不格好に立ちます。脚が変な方向に曲がるかもしれない。

それも含めて、ここで見せていきます。

24日かけて、やっとスタートラインです。

また隙間の時間で少しづつ進めてみたいと思います。

が、今は服ヲ掘ルvol6に全力で向き合うので一時休戦です。

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