Levi's 505 ——ワークからファッションへ、過渡期のジッパーフライを掘る

Levi's 505 ——ワークからファッションへ、過渡期のジッパーフライを掘る


今回は Levi's 505、それの66後期のやつを掘っていきます。

501を掘った流れでの505なんですが、正直に言うと最初はあんまり乗り気じゃなかったんですよ。
シルエットが違うだけで、中身はほとんど501と同じでしょ、と。そう思い込んでいました。
ところが、いざ解体して各部を見ていくと、これがまあ結局いつも通り楽しくなってしまって。
品番がひとつ違うだけで、こんなに語れることが出てくるのかと。

505というモデルは、Levi'sの歴史の中でもちょっと特別な立ち位置にあると思います。
Levi's公式の説明によると、505は1967年に登場した、Levi's初のジッパーフライ(かつ防縮加工)のジーンズだそうです。
501より少しスリムなカットで、ジッパーを備えた新しいロットナンバーとして生まれた、と。
ワークウェアとしてのジーンズが、ファッションアイテムへと変わっていく——ちょうどその過渡期に生まれたモデルなわけです。

ジッパーフライの開いた状態。501との対比が分かるカット

501に次いで人気のあるモデルなんじゃないかと思いますが、その人気の理由も、この「実用とファッションの両立」というところにあるんだろうなと。今回はそんな過渡期のディテールを、ひとつずつ見ていきます。

なぜ脇の始末が2種類あるのか

脇の耳使い部分のアップ

まず脇の始末から。505というのは、脇の耳使い(セルビッジ)とロックミシンの始末、その両方が混在しているモデルなんです。

僕も数年前まで知らなかったんですが、この時期の505には、脇が耳使いの個体とオーバーロック始末の個体の、2種類が存在している。
これ、普通に考えたら「なんで同じ品番で2種類あるの?」ってなりますよね。

ロック始末部分のアップ。目の粗さが分かるカット

耳使いの良さは言うまでもないんですが、面白いのはロックミシンの方です。この時代のロックは、現在の見た目とは全然違う。1針ごとの振り巾が広くて、目が粗いんですよ。今はもっと細かい目になっています。チェーンステッチに比べてロック始末はニーズが多くないので、今だとこれが出来る工場もかなり限られてくる。しかも、ロックの縫い始める方向すら気にしてない感じがあって、こういう無頓着さがビンテージならではだなと思います。

なぜ耳とロック2種類が混在するのか。この答えへの妄想は、後で出てくる「ベルトの地の目」の話と繋がってきます。いったん脇の仕様違いは頭の隅に置いておいてください。

内股の縫代が語る、ミシンの進化

内股縫い目の縫代幅が分かるカット

次は内股の縫い目。これはアイテム固有の話というより、年代による変化なんですが、縫代の巾が太くなっているんです。

これ、何を意味しているかというと、地縫いとオーバーロックが同時に出来る「インターロック」と呼ばれるミシンが使われ始めた、ということなんですね。一本の工程で地縫いと縁かがりを一緒にやってしまう。つまり、物づくりの効率化が少しずつ進んで、今の製造に近づいてきているわけです。

こういう、縫製の都合が形になって残っているのを見つけると、ちょっと感慨深いというか。効率を上げるための選択が、縫代の巾というかたちで記録されているわけですから。

あと、ジッパーフライならではの注意点として、J字型ステッチの内側に閂(かん)が入ります。ここ、縫う時に金具に針が当たると折れるので注意が必要なところ。実際に作る側からすると、こういう「針が折れる危険ゾーン」みたいなのが仕様として存在しているのが、ジッパーフライの面倒くささであり面白さでもあります。

ベルトの地の目が示す、思い切った仮説

ウエストベルトの地の目が逆向きになっているのが分かるカット

ここが今回いちばんテンションの上がったところです。

ウエストベルトの地の目が、いつもと逆になっているんですよ。短い方がタテ方向に裁断されている。普通(という表現が正確かどうか微妙ですが)とは逆向きなんです。一方で、バックヨークの地の目は今まで通り。ベルトだけが変わっている。

ここで「なぜ?」と考えてみます。地の目を逆にすること自体に、特段大きなメリットがあるとは思えない。だとすると、何か別の事情があったはずです。

耳付き個体と耳無し個体の身頃を並べた比較カット

そこで、さっきの「脇が耳使いの個体とオーバーロックの個体が2種類ある」という話が効いてきます。
この2つを並べて考えると、ひとつの仮説が立つんです。

——もしかして、生地の巾が広くなったんじゃないか?

通常、耳付きの生地というのは巾が約75cm前後。
実際、海外のファッション史の資料でも、ヴィンテージのセルビッジデニムはおよそ28〜32インチ(約70〜80cm)の狭い巾のシャトル織機で織られていたとされています(Heddels等)。
それに対して、巾が広いものというと120cmや140cmといった、よりずっと巾のある生地を指します。
参考までに、現代のプロジェクタイル織機だと60インチ(約150cm)前後まで広くなるそうです。

さて。もし生地の巾が75cmしかないとしたら、ベルトの短い方をタテに裁断できるサイズってかなり限定されてしまうんですよ。
何インチもサイズ展開している中で、小さいサイズだけ地の目を変えている——というのは、ちょっと考えにくいんじゃないかと。

つまり、こういう仮説が成立します。生地の巾が広くて、ベルトの短い方をタテに入れることが可能だった。そして、生地の端っこ(耳)を使って裁断した身頃には耳が残り、生地の中心を使って裁断した身頃には耳が無い。これなら、脇の仕様が2種類あることにも、ベルトだけ地の目が逆になっていることにも、全部つじつまが合うんです。

なかなか思い切った仮説だとは自分でも思います。
言い切れるだけの裏付けがあるわけではないので、あくまで「こう考えると全部説明がつく」という話です。でも、案外これ、あるんじゃないかなと思っています。
狭い巾のセルビッジから、広い巾への過渡期。
それがこの一着に記録されているのかもしれない。そう妄想すると、ぐっときますよね。

尻グリに残る、501の血筋二本針ステッチの走りが分かるコインポケット全体のカット


お尻まわり、尻グリの形も見ておきます。

505の尻グリは、わりと直線的な形をしています。これは501の系譜であることを物語っている部分だと思うんですよ。いろんなモデルを見てきた今回の服ヲ掘ルだからこそ、この「直線的だな」というのが前より分かりやすく見えてくる。

面白いのは、505ってせっかくスッキリしたテーパードシルエットにしているのに、尻グリは直線的なままなんですよね。だから、お尻まわりにはちょっと野暮ったさが残っている。普通に考えたら、スリムな見た目に合わせてお尻ももっとスッキリさせたくなりそうなものです。でも、そうしていない。


この「野暮ったさを残している」ところが、逆にジーンズらしさに繋がっているんじゃないかと思います。作り手が意図的にそうしたのか、それとも501の型をベースにいじった結果そうなっただけなのか、どっちでしょうね。個人的には、501から受け継いだ骨格をあえて崩さなかった、という方に惹かれます。シルエットは今風に振りつつ、芯の部分はジーンズのまま残す。そのバランス感が505なんじゃないかと。

コインポケットの三角が暴く、ミシンの種類

細かいところですが、コインポケットも見逃せません。

コインポケットはダブルステッチで止め付けられているんですが、下側の角の内側、3か所に小さな三角形が出来ているんです。これ、ゴミでも縫い間違いでもなくて、二本針——2本同時に縫えるミシンが使われている証拠なんですよ。

なぜ三角が出来るのか。二本針で角を曲がるとき、内側の針と外側の針で進む距離が変わる。その差を埋めるために、角のところで三角のあそびが生まれるんです。原理がピンとこない方は、ペンを2本並べて手に持って、コインポケットの形をなぞるように線を引いてみてください。内側のペンと外側のペンで、角の曲がり方がどうしても変わってくるのが分かると思います。これ、やってみると地味に面白いので是非。

ミシンの進化によって、今ではこの三角を出さずに縫うことも可能になっています。だから逆に言うと、この三角があるかどうかは、ビンテージを意識した物づくりをしているかどうかを見分ける分かりやすいポイントになるんですよね。

1.5cmが変える、服の印象

最後にシルエットの話を。

505はテーパードシルエットですが、前述の通り、全体の作り方は501を踏襲していると思われます。
股下の形状が細く、スッキリしている。
ただ、テーパードといっても、スリムの606ほど細くなっているわけではありません。
501との違いは、裾巾で1.0cm〜1.5cm程度でした。(これは個体差があるので、あくまで参考です。)

1.5cmって、数字だけ見ると「そんなもん?」と思うかもしれません。でも、服作りにおいては、この1.5cmの巾の違いって、イメージを随分と変えるんですよ。たった1.5cm、されど1.5cm。

それが大きいと感じるか小さいと感じるかは、人それぞれの判断になると思います。
でも作り手の感覚からすると、裾の数センチをどう設定するかで、そのパンツが「ワーク寄り」に見えるか「ファッション寄り」に見えるかが決まってくる。
505がワークからファッションへの過渡期のモデルだという話と、この1.5cmは、たぶん地続きなんですよね。501の骨格を保ちながら、裾をほんの少し絞る。
その微調整で、時代の空気に合わせていった。そういうことなんだと思います。

掘ってみて思うこと

解体したパーツを並べた俯瞰カット

というわけで、最初は「501と大して変わらないでしょ」と思っていた505でしたが、掘ってみれば語ることだらけでした。

脇の始末が2種類あること、ベルトの地の目が逆なこと、内股の縫代が太くなっていること。
ひとつひとつは小さな違いなんですが、これらを繋げて考えると「生地の巾が広くなった過渡期」という一本の線が浮かんでくる。
そして尻グリやコインポケットには501譲りの血筋が残っていて、裾のたった1.5cmにファッションへ向かう意志が刻まれている。

ワークからファッションへ。その切り替わりの瞬間を、一着のジーンズがこれだけ饒舌に語ってくれるとは思っていませんでした。品番がひとつ違うだけ、では全然なかったわけです。

というわけで、今回も楽しかった!!

Levi's 505 これにて。


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